多くのお年寄りにとっては老人ホームが「終の住い」となる。そこが単調な空間であれば、生きる気力がおこらず、気持ちは滅入る。植物は日々刻々と変化して人の感性を刺激し、入居者の精神衛生に大きな影響を与える。本プロジェクトでは、建築家と造園家の協働のもと、建物と庭を一体化させ、「入居者が輝いた若き時代に暮らした故郷の景色」を目標として設計を行った。
所在地: 愛媛県宇和島市 発注者: 社会福祉法人 愛心会 規模: 敷地面積 1.2ha 建築設計: コスモス設計 造園設計: 愛植物設計事務所 計画期間: 2005年―2006年 開設: 2007年1月
故郷の景色を具現化するために、建物は「杜」の中に建つという風景を目標とした
環境学からみたボケない家や地域とは、
であるという。高齢化社会を迎え、多くのお年寄りにとって老人ホームが「終の住い」となる。人は年をとったり病気をしたりすると気力が減退する。生きる気力がおこらない単調な空間は、人の気持ちを滅入らせ、ボケが進行しやすい。
日々の暮らしのなかで、生きる喜びが持てる気持ちの良い環境とは、
一般に介護施設などでの認知症への対応は、失われた「身体機能の介護」が主目的で、植物や周りの風景などから受ける、精神衛生の向上効果には目が向けられていない。本来介護施設は病院ではなく、入居者の個性を支えて‘その人らしさ’を取り戻すための施設である。そのため施設には「身体の介護」に加えて、「日々変化するみどりから気持のよい刺激を受けられる暮らしの空間」が不可欠である。
「あさひ苑」はこのような考えのもとに、その目標とする風景を、入居者が輝いた若き時代に見慣れた故郷の風景とした。‘終のすみかは故郷の風景’を目標にして構成されたあさひ苑のみどりは、植物を通して四季を感じ、その話題が日々の生活に持ち込まれるように、周辺の山並みのみどりと同じ樹木を骨格にして、見慣れた果樹や故郷の花々が、各部屋からも見えるように配置している。それらの植物は職員により室内に飾られ、食卓に持ち込まれ、“触り”、“香り”、“食べる”ことによって、さらに感情がしげきされることを想定した。