平成10年に東京都名勝に指定された都立殿ヶ谷戸庭園は、典型的な段丘崖を含んだ地形を巧みに生かした廻遊式庭園である。しかし、廻遊式庭園としての整備から約70年、都立庭園として正式開園後20年以上経過し、庭園内の景観や周辺環境も変化している。そこで、本庭園の特徴的な緑環境を保全・回復するため、植物管理および生育環境の整備への提案を目的として本調査を実施した。
本庭園は、東京都国分寺市の国分寺崖線上に位置する。大正初期に後の南満州鉄道副総裁である江口定條の別荘として作庭された「随宜園」が前身で、その後、岩崎家により廻遊式林泉庭園として整備された後、東京都が買収し昭和53年に正式開園、平成10年に東京都名勝に指定された。名勝指定理由は、「国分寺崖線の南縁にあって、典型的な段丘崖を含んだ地形を巧みに生かして作庭された変化に富んだ回遊式林泉庭園であること」等とされる。
伝統的な廻遊式庭園でありながら雑木林など自然性豊かな環境を景観要素として取り込んだ庭園であり、その改修・整備にあたって、本来の庭園の特性を尊重すると同時に、豊かな環境(特に植物相)の保全活用計画に取り組んだ作品である。
とりわけ、得意分野(植物・植生に関する知識や技術のストック)を活かして、既存植生や動植物に関するきめ細かい調査と、それに基づく環境ごとの整備目標の設定ならびに管理マニュアルの作成、さらに地域の生態系に配慮した新たな植物の導入に際しての考え方の指針を提示した点は、環境の多様性や自然との共生が求められる新しい時代の、庭園管理の一つの方向性を示したものとして高く評価できる。
CLA(ランドスケープコンサルタンツ協会)ジャーナル「殿ヶ谷戸庭園 緑の保全回復調査」紹介ページダウンロード