沖縄県うるま市内標高約150mの山原の森に囲まれたパイン畑跡地に、洋ランの生産・観賞施設事業を展開するというプロジェクトである。整備にあたっては、沖縄特有の山から海へと至る地域環境的連関を水系を軸に整えることで、トンボやチョウが飛び交う本来の山原環境の美しさを引き出し、結果として屋外でランを気持ちよく鑑賞できる場所づくりを目指した。
所在地: 沖縄県石川市嘉納刈 発注者: 農事法人 堂ヶ島洋らんセンター 計画・監修: プランタゴ 植栽設計: 愛植物設計事務所 工期: 1992年~1995年
整備前(左)と整備12年後の森(右)
整備前の単調な二次林に遷移系列の植物を捕植し、12年後、成熟した森と亜熱帯の水辺が復元された。
<敷地状況>
計画敷地は、標高150m付近、ダムよりも高い所に位置し、三方をゴルフ場に囲まれている他、湧水や渓流を有した5つの谷がある。敷地内の台地部は20年程前までパイン畑であり、その後放棄され、リュウキュウマツ林となっていた。計画参画当時、事業主体は、洋ランの生産ハウス団地をパイン畑跡地に先行造成し、生産用水源池としてアースフィルダムを敷地内水系の最下流に造成していた。
<考え方>
山を守ることは、集落、海岸の真白いビーチ、その地域環境に抱かれた人々の営みを守ることである。沖縄特有の山、小規模平野、ラグーンといった地域環境のトータルシステムを水系を軸とした計画によって、地域の人材や環境への利益還元が可能となり、長期にわたる事業の熟成が促される。このような考えから、以下の具体が導き出された。
①ゴルフ場からの流入水の水質浄化
計画地に流入する水はゴルフ場および道路からの表面水がほとんどであったため、ソダシガラ、フトンカゴフィルター等を通過させた後、流入水沈砂調整池に一時貯留し、琉球石灰岩礫のフィルターを設置したフィルター桝を通して水質浄化池へ導いた。また、池は主要施設への進入路の造成を兼ねたアースフィルダムによって8000tを貯留するものとした。
②水辺の多様化による在来水生生物の棲みかの保全・拡張
計画地の中でもトンボやサワガニ、ヨシノボリ等の生息地となっている既存の沢は保全を原則とし、整備後も人の立入は行わないようにした。また、水質浄化池の岸部に浅水域を確保することによって水際の植生を多様化し、トンボやヤンマ類の休息、産卵の場を創出した。
③放置され均質化した二次林の多様化
均質なスダジイ、リュウキュウマツの二次林を、間引きや下刈りによって林床環境に変化をつけ、計画地に多く生育している遷移系列上の南方系のシダ類を守り育て、地域固有の風景を目指した。
④チョウの食草を保全・拡張
計画地には、沖縄本島に55種いるといわれるチョウのうち35種を確認されていた。その自然のままに群れ遊ぶ様子を楽しめるようにするため、幼虫のための食草を守り育て、成虫のための蜜源植物を用意した。
⑤自然環境でランを咲かせる
計画地の野生ランの自生地を調査記録し、可能な限り原地形の保全を心がけた。自生しているカクチョウランを核にナゴラン、コウトウシラン、ナリヤラン、ツルランなどをそれぞれ適地と思われる場所に植栽した。また、華麗品種は、リュウキュウマツやスダジイに着生させ、山原の樹林を背景に花を浮き上がらせた。
全体平面図
沖縄北部の水系を軸とする環境系モデル
8000tを貯留する水質浄化池
頭上を舞うトンボ
着生展示されたランの華麗品種
池畔の林床に植栽されたラン