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ダイキン工業グローバル研修施設アレス青谷 植物調査及び、造園計画・設計・管理

★「生物多様性保全につながる企業のみどり100選」(SEGES生物多様性特別認定100選)受賞

計画地は鳥取県青谷町の井出ヶ浜に位置する小規模な海岸砂丘地である。砂丘の自然植生は衰退の一途を辿っており、多くが植物群落レッドデータブックに記載されるなど、海浜植物を伴う砂丘環境は極めて保全要請の高いエリアとなっている。本プロジェクトでは、研修施設としての利用と海浜砂丘地の植生の保全、再生の両立を前提にした造園をすすめ、これをさらに充実したものにしていくための継続的な植生管理を行っている。

所在地: 鳥取県鳥取市青谷町井手地内 発注者: ダイキン工業(株) 植物調査及び、造園計画・設計・管理: (株)愛植物設計事務所 規模: 敷地面積 約5.4ha 外構面積 約4.9ha 設計期間: 2007年6月~2007年12月 施工期間: 2007年12月~2008年5月

砂丘植生から内陸の樹林まで様々な地形と植生を有する計画地の全貌

 

海岸砂丘特有の植生を調査し解析する
計画地では、両翼を岬に囲まれた白い砂浜に海岸から内陸にかけての砂丘上に、一年草群落から多年草群落、低木群落、高木群落に徐々に移行していく砂丘特有の典型的な自然植生や砂丘後背部の代償植生が見られる。

また、計画地は海岸砂丘の汀線より至近の距離にあり、岬によって収斂された飛砂や強い潮風の影響によってつくりだされた凹凸のある地形と、その条件により生み出された様々な植生が微細に住み分けている。このため調査は、敷地全体の広域的な視点と、具体的な植栽計画に反映させるための詳細な確認の両面から進めることとした。調査による解析の結果、4タイプの地形区分とそれに伴う5タイプの植生区分によるゾーン区分が明らかになった。

尚、調査については、鳥取大学農学部の日置佳之教授から専門的な知見や地元情報などのアドバイスをいただいた。

土地利用の制約を植栽計画に反映させる
研修施設としての事業者からの要望は、保安林区域の法的な制約の中で

  1. 特に施設入口部分と海岸側については、主庭園としての体裁を整える
  2. 既存の海と砂浜と海浜植生を最大限に生かす
  3. 主庭園は短期間での景観づくりを行い、それ以外の海浜樹林への移行ゾーンは中~長期的な視点で、修景及び、管理を継続するという3点であった。

これを前提とし、調査の分析と整合させた結果として、初期の整備内容とその後の方針を確定した。

ここで用いた代償度の概念を用いた植栽計画とは、右の表に示したように、植生の自然度が高く、より一層の保全が求められるゾーンには、自然度の高い植生を保全し、施設を導入する保安林の解除ゾーンに限って導入種の幅を広げて、事業者のイメージする四季の彩りが明瞭な植物景観を演出するという考え方である。

具体的には

  1. 砂丘
    自然の砂丘地形と海浜植物からなる希少な風景を保全し鑑賞に供する
  2. 西側自然地
    外来種の除去、ネザサの刈込み、自生種の補植などによってここ本来の自然風景の魅力を高める
  3. 北側主庭
    潮風、強風、飛砂のストレスに耐える海浜性植物を既存のマツ林に加えて野趣に富む庭園風景に誘導していく
  4. 東側多目的広場
    研修施設に欠かせない屋外でのイベントゾーンとして、保安林解除ゾーンに外周を砂丘植物で補強した芝生空間を確保した。
  5. 東側海浜樹林
    ニセアカシアとつる植物に覆われていた後背部の植生を本来のこの地域を構成していた常蔭広葉樹の混交林に戻すための伐採・つる伐り、自生種の補植、外来種の刈り取りなどを行う
  6. 南側ロータリー周辺
    カシワを主体とした耐潮性のある種を中心に玄関口として完成度の高い前庭景観をつくる

植物管理と在来種による植生復元
敷地の大半が保安林の保全を前提としており、現地の個体から繁殖した植栽材料を含む、若木や苗木を用いるため、養生から育成に時間をかけて取組む必要がある。そのため、時間をかけ現状の様子を確認しながら行う「順応型管理」を前提とし、その効果を高めるために植生モニタリングの調査を並行して行っている。この際、事業者・設計者・管理者の三者で確認する現地の「協働巡回(ウォークスルー)」を定期的に行っている。

上空より計画地を俯瞰する

計画地内の砂丘地形区分

代償度区分

代償区分ごとの初期整備内容と植生管理

植生・植栽の計画(植栽ゾーニング)

左:植生モニタリング、右:協働巡回(ウォークスルー)

施設全景